夢はエンジニアに強い影響を与える本を書くこと 松信嘉範さんのエンジニアライフ(2/2)
――オープンソースそのものをビジネスにしていくのに不安はありませんでした?
松信 ソニーでの仕事に満足していたので、あえて飛び出すのには不安があったのも事実です。私自身、転職することを想定していなかったし、できることなら同じ会社で長く働きたいと思っていました。MySQLに移るには、そこで長く仕事ができることが大前提でした。技術的な将来性だけでなく、財務的な安定性の面も検討しました。
結果的には、MySQLは基本的にGPLライセンスでありながら、利益が出ているので大丈夫だろうと判断したわけです。
GPLライセンスの製品というのは、拡張した機能についてもソースコードを公開しなければなりません。だから、どんな会社も同じ製品でビジネスをすることができます。一方、BSDライセンスは、自社で拡張した機能を含めたソースをクローズドにした有償販売が可能です。GPLではそれができないのです。
これはソフトウェアのライセンスビジネスができないという意味で、収益はサポートやコンサルティングといったサービスから上げるしかありません。MySQLはそれにもかかわらず利益を出していました。これは、MySQLがかなり普及しているということだし、お金を払ってくれるユーザーも相当数集まっていると考えたんです。
しかもGPLライセンスはいったん普及すれば、オープンな特性上、進化していきやすい。一度得たプロダクトの優位性はなかなかひっくり返りません。つまり、いったん利益ラインに到達すればそのまま発展していくはずなんですね。
――なるほど、かなり考えて転職されたんですね。
松信 オープンソースでお金をいただいていくことになるのですから、お金を払っていただけるユーザーをいかに獲得して、大切にしていくか、考えざるを得ないですよね。大事なことです。
コンサルティングをはじめ、対価をいただくとなれば求められる水準は高くなります。ただ、普通にオープンソースに関わるのであれば、お金が絡むわけではないのだから委縮せずにどんどん参加してみてほしいと思います。
――実際のところはどうでした?
松信 海外と日本では大分違うところはあるのですが、モバイルの課金システムや銀行系などDBを手堅く使う必要のあるエンタープライズ系のユーザーからの引き合いが結構あります。MySQLのコンサルティング費用というのは決して安価なものではないのですが、それでも引き合いがある。MySQLというとWeb系のイメージが強いかもしれませんが、実際には相当数がエンタープライズ系のユーザーだったりします。
――最近の技術的な興味はどんなところにありますか?
松信 個人的な興味は、やっぱりエンタープライズ環境でいかに安定して使えるかというところですね。パフォーマンスを引き上げるためにSDDとHDDをどのように住み分けて使うか、データベース監査やデータウェアハウス(DWH)などMySQLとしてまだ開拓の余地がある領域でいかに力を発揮させるか、など。エンタープライズの顧客が多いので、どうしてもそういうところになっちゃいますね(笑)
コンサルティングというと、顧客の問題を解決するだけでMySQLのソースに手を入れたりはしないと思うかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。例えば、5.1からストレージエンジンのプラグインが可能になりましたが、ある特定のストレージエンジンで十分な性能を発揮するためにMySQL本体を改変してほしいという要望にも応えたりしています。
コンサルティングの過程で、改善の必要性を改めて認識して、パッチを書いてコントリビュートするような場合もあります。
――会社の仕事をする環境はどうですか?
松信 MySQLはサン・マイクロシステムズに買収されましたが、私自身はずっと同じ上司の下で仕事をしているので、本質的なところは変わっていません。職場の場所や経費清算の方法が変わるのは面倒ですが、日本語の話せる庶務さんがいるのはとても助かりますね。
――お休みはどんな過ごし方をしているんですか?
松信 本当は旅行が好きなんですが、APAC(アジア太平洋地域)のコンサルティングを担当しているので、月の3分の1ぐらいは海外出張。それで結構、満足しちゃっています。今は円高だからシンガポールなんかでのショッピングはお得ですし、遊ぶところも沢山ありますし。米国に行くときはメジャーリーグをよく観戦しています。シアトルでマリナーズの城島選手の満塁ホームランを見たときは感動しました!
旅行は海外出張で満たされているので、週末は本の原稿を書いていることが多くなっています。平日は会社帰りに毎日スポーツジムに通っているのですが、運動の後にはロビーでパソコンに向かって1時間ぐらい書いていますね。原稿を書いているときはインターネットにつながないというのがコツです。集中できなくなりますから。
――結構、本を出されていますね。
松信 自分でもよく続いているな、と(笑)
――今後のビジョンを考えたりすることはありますか?
松信 自分のロールモデルは、SpringSourceのCEOだったロッド・ジョンソンなんです。彼はコンサル兼エンジニアだったときに、顧客の課題の中から当時デファクトだったJ2EEの問題を認識して、それを指摘する本を出版した。そして自らDIコンテナの「Spring Framework」を開発して、持続可能なビジネスとして成り立たせた。しかも最近VMwareに買収され、見事にゴールを達成した。そういう行動力に憧れます。まさにオープンソースの時代の人です。
自分もロッド・ジョンソンのように、エンジニアに強い影響を与えるような本やプロダクトを出すのが夢ですね。
オープンソースと商用製品のどちらが優れているかは一概には言えません。ただ、需給の問題でソフトウェアの価格が下がっていくのは仕方がないことです。それによって、ユーザー企業の負担が減り、自分たちで問題を解決するための研究開発を行う余裕も生んできた。それがmemcachedやHadoopといったユーザー企業発のイノベーションにつながってきています。
これは、エンジニアがソフトウェアベンダーとユーザー企業の間をこれまで以上に行き来しやすくなるということでもあります。私自身ももともとはユーザー企業にいたわけですから。
これからはちゃんと企業の課題を認識できるところにいるエンジニアがどんどん有利になっていく時代になると思います。いまの自分はいいポジションにいるなと思いますね。
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