――まずITエンジニアになった経緯を教えてください。
ひろせ この業界の人と話をすると、みんな小学生のころからプログラミングをやっていたと言うんですよね。でも僕はそんなんじゃないんです。大学も都市計画をやりたくて入ったし、まったくコンピュータに興味はなかった。だから、一般教養でプログラミングの授業があっても隣の人のノート丸写しで、何やっているか全然分からないような人間でした。
――それを変えるきっかけになったのは何だったのですか?
ひろせ Webブラウザの「Mosaic」に感動してからです。93年終わりぐらいですかね。コンピュータと言えば、文字ばかり映し出されるイメージしかなかったんですが、Mosaicは画像も表示されるし、文字をクリックすると、次々と別のページが出てきた。直感的に「これは凄いな」と思いました。
それからHTMLを見よう見まねで書くようになりました。そして、簡易な掲示板のようなゲストブックというものを知って、このようなことをやるにはCGIのプログラミングを勉強しないといけないらしい、というのが最初です。
――ITエンジニアになるとは思ってなかったのでは?
ひろせ 普通ならそうですよね。専攻が都市計画ですからね。周りの友人は土木だったり、公官庁などに行く人が多かった。でも、そのころの僕はネットにはまっていて、コンピュータルームに入り浸っていたから、都市計画よりネットの方が面白いかな、と思うようになっていましたね。
――最初に作ったWebアプリ覚えていますか?
ひろせ Webアプリなんていうレベルのものじゃないですよ(笑) ゲストブックみたいな簡単な掲示板みたいなもの。最初はShellで書きました。
――ひろせさんはオープンソースで何でも自作するとお聞きしています。例えば、ロードバランサーも自分で作っちゃうとか。
ひろせ いやいや、作るなんてものじゃないですよ。オープンソースを集めてきて、動かしているだけ(笑)
――さすがにロードバランサーになると、アプライアンスを買ってきてもいいのかなと思いますが、そういうものも基本的にはオープンソースで?
ひろせ ベンダーの製品を買ってくれば、電源を入れてちょっと設定すればとりあえずは動くんで、それはそれで良いのですが、中身がブラックボックス。それよりはLinuxとかで出来ちゃう実装を持ってきたほうがいい。もちろん、ロードバランサーは数百万円もするから高いというのもあるんですが。
ただ、オープンソースは製品として洗練さていないので、管理機能が基本的なものしかなかったりします。だから、自分たちが便利に管理できるツールや、別のオープンソースとつなげるスクリプトやプログラムを書いたりして、自分のシステムとして作り上げていっています。
――興味深いですね。
ひろせ 中身を知らないっていうのは、とても気持ち悪いんですよ。ソフトウェアにしてもハードウェアにしてもベンダーの製品を使う場合、トラブルとどうにもならない。出来ることはサポートに問い合わせるだけ。だったら、自分たちの見渡せる範囲で自信を持ってサービスしたいという気持ちがあります。
もちろんベンダーの製品を否定しているわけではなくて、別の道もあってもいいかな、と。僕も最初は「Alteon」を使っていましたし(笑) Linuxにロードバランサーの実装があるとは知りませんでしたから。
――そのような新しいものを作ろうというとき、どのように情報を集めているんですか?
ひろせ うーん、知り合いに教えてもらうことが多いですかね。海外のブログも見ていますが、どちらかというと最近は同じようなことに興味のある日本の知り合いのブログとかソーシャルブックマークを見ていますね。
自分で全部情報収集するのは難しいですから、好きそうな人を見つけてウォッチして、彼らが今、興味を持っていることをのぞかせてもらう。そんな感じです。
――勉強会で知り合いになるのですか?
ひろせ そうですね。昔に比べると、事前にブログ読んだり、「Twitter」や「Wassr」でやり取りしていたりするから、話の切り出しがスムーズになりましたよね。お互いのバックグラウンドを知っているので、「今日も暑かったですね~」なんてところから始めなくてもいい。いきなりズバッと本題に入れます。
――Mosaicに魅せられたころと比べて、ネットの世界は大きく変わったと思いますが、実際、エンジニアとして変化を実感されていますか?
ひろせ 技術的な進歩という意味では、そんなに変わっていないと思います。今でもTCP/IPやHTTPを使っているわけで、ここ5年10年でビックリするような新しいものは出てきていないような。
サービスレベルでは、面白くて便利なサービスが次々と出てきましたよね。例えば、本の買い方ひとつにしても10年前と比べて完全に変わっているし、メールやらチャットやらミニブログのおかげでコミュニケーションの速さや範囲も大きく変化している。人の暮らしもどんどん便利になって楽しくしてくれています。わくわくしますね。
――『24時間365日 サーバ/インフラを支える技術』という本を書かれていたりしますが、得意な分野はどちらかというとインフラ側なんですか?
ひろせ 今はそっちの仕事の方が多いですね。
もともとはWeb系の会社でCGIのプログラムを書いていたんですが、だんだんプログラムが動く環境に興味を持ち始めて、ApacheやSendmailをいじったりしていました。
業務として初めてインフラの仕事をするようになったのは、ケイ・ラボラトリー(現:KLab)に入ったときです。当時はまだ人も少ない会社でしたら、CTOの仙石さんが社内ITも1人でやっていました。「ひろせさんはその辺もできるので、社内のメールサーバの管理とかやってみない」という感じで、サーバの面倒をみるようになった。何年かすると、会社が業務範囲を広げていって、サーバやインフラの運用サービスもしようよ、となっていったわけですが。
僕は最初プログラムから入っていって、インフラへと守備範囲が広がっていったんです。
――サービスを作るプログラマはどちらかというと花形なわけですが、インフラの仕事も楽しいですか?
ひろせ 両方、楽しいですよ。
Webアプリをバリバリ書くことはなくなったけど、システムというのは単にオープンソースを持ってくるだけじゃ作れないんです。プロダクトとプロダクトの間を埋める連携だったり、管理の仕組みが必要。Webアプリではないですけど、結構コードを書いています。
サーバの設定に飽きたらプログラミング書いて、プログラミングに飽きたらルータを設定して、といったりきたりできる。飽きっぽい人には向いているんじゃないかな。大きな会社になると、エンジニアも細分化されていているから、そうもいかないかもしれないけど。
――現在もインフラ側の仕事がメインなんですか?
ひろせ そうですね。昨年の11月からスタートアップの会社にいて、近いうちにWebサービスを立ち上げる予定です。今はそのインフラを組んでいるところです。
――そうでしたか。やはり全部Linuxで?
ひろせ データセンターでラックを借りているんですが、スイッチングハブ以外はすべてPCで、ルータもロードバランサーもすべてLinuxで作っていますね。
――最後に休日をどのように過ごしているか、聞いてもいいですか?
ひろせ 特に何にもしてないんですよね。子供がまだ小さいので、雨が降ってなければ遊びに行くぐらい。結婚する前も家でキーボード叩いているのが好きでしたら、コンピュータが趣味みたいなものかなあ。
「何でそんなにコンピュータばかりやっているの? 」と言われることは何度もありましたよ。「仕事でもやって、家に帰ってきてもやって、土日もやって、よく飽きないね」なんてね。でも、これが自分の好きなことだからね。
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